時計史に偉大な足跡を残しつつ、その名が歴史から消えた悲運の時計師も少なくない。欧州各国で腕を磨き、1854年、故郷のドイツ・グラスヒュッテに腕時計工房を創設した、モリッツ・グロスマンもその一人だった。複雑機構のキャリバー開発では一目置かれる存在であったが、1885年に急逝すると工房は閉鎖。大いなるヘリテージは封印されることになった。
それから100年以上の歳月を経て、グロスマンの技術遺産に注目したのが、A.ランゲ&ゾーネなどでマーケティング経験を積んだ、時計師のクリスティーネ・フッターだった。彼女は、モリッツ・グロスマンが掲げた「新しい時代の原点」の意思を受け継ぎ、2008年に「グロスマン・ウーレン社」をグラスヒュッテに創業。針1本まで人の手で仕上げる、マニュファクチュールによる時計製作に着手し、2010年に初作「ベヌー」をローンチすると、「アトゥム」、「テフヌート」とコレクションを増やし、現在までにトゥールビヨンを含め10を超えるキャリバーを開発。手頃に技術を体験できるピュアシリーズも展開する。ムーブメントの装飾や部品の2度組みなど、A.ランゲ&ゾーネの特徴を彷彿とさせるのは、A.ランゲ&ゾーネ出身のマイスターが主任設計者を努めるがゆえ。安定性を確保する洋銀製3分の2プレートに見る直線的なカットや、チラネジ付きテンプ全体の鑑賞を可能にするアーチ型のくり抜き、そしてホワイトサファイアを用いたゴールドシャトンなど“動く芸術品”といわれる、比肩なきムーブメントの美しさが見るものを引きつける。
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